おやおや。
なんだね?。。ムズカシイ顔をして。。
せっかくのうつくしい化粧が 崩れるよ?
と ピアノは 穏やかにも 少し 緊張して
大人の余裕をもみせる ピアニシモ。
今度は おんなのこころ を 音にする。
とつとつ と 語る 着飾った女。 大切な 話 なの。。
細いヒールの足首が 強く 足踏みをする。
わらっていないで。。 真面目なハナシ なの。。
うつむくように。
すこしずつ また こちらをみつめて。
確かめる様に言葉を選ぶ。 確かめる様に 宇宙をみる。
とうとう 言ってしまう。今。
これを言ってしまえば また独りぼっちになるのだ。
それでも。言おう。
言うんだ。 いま。
化粧も 指輪も ひとつずつはずす。
素足に 木綿のくつ を履いて
こころの奥に隠されていた無垢な少女が 一人で歩き始める。
力強く奔放に放たれるうたごえのときにも
こころの奥にある 深く透明の
哀しさと しずけさを。
悲痛に放たれる 最後の言葉のあとには
つぶやくように あるきはじめる
木綿シューズの素足の ゆびさきに
底知れない孤独と 決意を。
ピアノは語る。
この人のこれまでが どんなにか暖かで みたされ
不幸であったか。
この人のこれからが どれほど吹き晒し で
しあわせへと 歩きはじめたか。
語り終えたうた姫の
木綿のシューズの足首を ただ みおくるピアニシモが
みおくる私が どれほどに愛していたかを 物語らないでおこうとして
とても とても哀しく
やさしい とおもう。